パースの子どもたち
辻本 紳一朗
学校の様子
オーストラリアにも、日本と同じようにいろんな子がいます。元気いっぱいの子、おとなしい子、ひょうきんな子・・。全体的には、とても明るく。フレンドリーです。
オーストラリアは移民の国ですから、教室の中には、いろんな国から来た、いろんな瞳の子、いろんな髪の色、いろんな肌の色の子供たちがいっしょに勉強をしています。この国では、「違うのが当たり前」なんですね。
【ルール】
ところで、オーストラリアの学校って、きっと自由でのびのびしているんだろうな、って思いませんか?ところが実際は、そうでもないようです。学校に入ってまず驚くのは、授業が非常に静かに進行しているということです。教室の扉は開放されていますが、他のクラスに迷惑になることはありません。授業の妨げになる言動をする子は、迷わず廊下に出されます。これは、学習する子の権利をより大事にするからです。
学校のきまりも多く、決められたルールを破ると、いろんな罰を受けます。教師たちは子供たちとなれ合いになることなく、きちんと接します。このあたりは、非常に管理的な印象を受けました。しかし、ルールについては、子供たちもよく納得しており、ルールに沿って教師たちが指導をするため(その場の感情ではなく)、指導が横道にそれず、徹底するようです。
また、パースの小学校では、授業中に自由にトイレに行ってもよいことになっているため、授業をしている子供たちが教室を立ち歩く姿をよく見かけましたが、守るべきルールとそうではないこと(たとえば生理現象に関わること)は区別されています。
それから、廊下を走っている子を見かけなかったことも印象的でした。「人の迷惑になることはしない」というルールが徹底されているんですね。もちろん、これは小さい頃からのしつけやモラルによるものも大きいでしょう。建物の中で走ったり、公共の場で大声を出すことは、とても礼儀知らずなことだとされているからです。
【ユニフォーム】
それから、オーストラリアの学校には、ちゃんとした校服があります。公立の学校では、たいていが学校独自のポロシャツやトレーナーを校服にしています。校服のまま外で遊ぶ場面が多い小学生にとっては、この方がいいかもしれませんね。
高校生くらいになると、普段のトレーナーに加え、式典用のブレザーが校服に加わります。ある公立高校では、このブレザーを学校が式典の時にだけ、生徒に貸すというシステムをとっていました。ブレザーは高価なので、これはとても合理的な考え方ですね。
【教科書】
小学校の授業では、共通の教科書ではなく、先生たちが自分たちで作った教材を教科書がわりに使います。教科によっては、子供たちの興味や関心によって、学習内容がどんどん広がっていくこともあります。
授業内容は、造形活動を含めた表現活動を重視しています。ディベートの授業も多く取り入れ、自分たちの考えをはっきり表現する力の育成に努めているようです。
【給食】
パースの小学校には、給食がありません。子供たちは、自分たちの家から持ってきたお弁当や、「キャンティーン」と呼ばれる購買部でピザやサンドイッチなどの軽食を買って好きな場所で食べます。ただし、教室内で食べることはできません。このキャンティーンには、アイスクリームやキャンディーなどのお菓子も売っています。モーニング・リセスと呼ばれる中間休みには、お菓子を買って食べてもいいことになっているからです。
【休み時間】
休み時間には、防犯上の理由で教室に鍵をかけるため、子供たちはみんな教室の外に出されます。先生たちは休み時間にスタッフルームでお茶を飲んだりお菓子を食べたりしますが、子供たちが文句を言うことはありません。先生と生徒は立場が違うものだという認識がはっきりされているからです。ただし、当番の先生が、休み時間に運動場の見回りをする仕事があります。子供どうしのトラブルがあったり、事故が起こったりした時に、現場を見ておく必要があるからです。
【そうじ】
学校には、掃除時間がありません。校舎内の掃除はクリーナーさん、校庭の掃除はガーデナーさんたちがしてくれます。ですから、子供たちも先生たちも、昼休みをのんびりと過ごしています。学校の掃除はしませんが、ボランティア活動には積極的に取り組みます。
【帽子と日焼け止め】
紫外線の強いパースでは、帽子をかぶり、日焼け止めを塗っていなければ、外で遊んではいけない、というきまりになっている学校が多くあります。東海岸には、子供もサングラスをかけて登校することになっている学校もあります。
【下校時刻】
学校が終わるのは、だいたい午後3時過ぎで、1年生から6年生までが一斉に下校します。先生たちは、3時15分くらいになると、たとえ子供たちが学校に残っていても、さっさと勤務を終えて帰宅してしまいます。就業時刻を過ぎると、家族と過ごす時間や、自分自身の時間を大事にするのです。帰宅後には、釣りやサーフィンなどをしているようです。それぞれが人生を楽しんでいるんですね。
【日本人とのけんか】
さて、私の勤めていたパース日本人学校は、オーストラリアの小学校と同じ敷地内に建っているため、1日の多くを現地校と一緒に過ごします。休み時間には、サッカーをしたり、鬼ごっこをしたりして日本人の子供たちとオーストラリアの子供たちが仲良く遊ぶ姿も見られるのですが、子供どうしですから、時には衝突も起こります。ある時、ささいなことから始まった口げんかが加熱して、オーストラリアの子が、日本人の子に向かってこう言いました。
「お前たちは、ぼくたちの国に爆弾を落としたくせに!」
きょとんとしていた日本人の子供たちの姿が印象的でした。また、みんなで考えていかなくてはいけない問題なのかもしれません。
放課後の子供たち
【遊び】
オーストラリアでは、塾に行く子がほとんどいないので、放課後には、子供たちがしっかり遊んでいます。バスケットボールや、ネットボール、スケートボードに木登り・・。本当によく外で遊びます。特にパースは素晴らしいビーチに恵まれているため、海で遊ぶ子供も多く、小さい頃からボディボードやサーフィンに親しんでいます。
ただし、近年は、市内に「KUMON」の看板も増え、テレビゲームの人気も高まってきています。オーストラリアのはつらつとした子供たちの姿も変容していくのでしょうか・・。
【お手伝いとお小遣い】
オーストラリアの子供たちは、よく家の手伝いをします。これは、仕事をしなければお小遣いがもらえない、というギブ・アンド・テイクの考え方からで、努力をしない子は、お小遣いがもらえないわけです。欲しい物があるときには、特にがんばっていろんな仕事をするようです。自分の家の中みならず、近所にチラシを配って仕事を探す子もいます。高学年になると、ベビーシッターのアルバイトもしています。
【物に対する愛着心】
自分の稼いだお金で買ったおもちゃは特に大切に使います。学校に持ってくる文具類も、古いものを大切に使っています。壊したり、なくしたりしても、すぐに買ってもらえない子が多いからです。物に対する愛着心というものは、こういうところから生まれてくるのかもしれません。
子供たちを取り巻く環境
【テレビ番組】
夜7時半になると、テレビで「子供は自分の部屋に戻りましょう」というアナウンスが流れます。ここからは、大人たちの時間になり、大人たちは自分たちの時間を楽しめるわけです。テレビ番組も大人向けのものになります。
ちなみに、オーストラリアでは、番組の始まる前に、「今から始まる番組は一般向けの番組です」「大人と一緒なら見てもいい番組です」「15歳以上向けの番組です」というような説明がされます。暴力場面や過激な場面のある番組を小さな子供たちに見せないためです。
【子供を守る規制】
「大人と子供は違う」という考え方から、いろんな規制が子供たちを守っています。たとえば、普通の本屋さんには、大人向けの雑誌は置いてませんし、町の中にタバコやお酒の自動販売機なども置いていません。オーストラリアでは、地域や社会全体で子供をよりよい方向へと育てている、という印象を強く受けました。
町の様子
【大切にされる町の美観】
パースの町を見渡してみますと、町全体がとてもすっきりとした印象を受けます。道路が広く、その上、建物の前に必ず芝生があって、見通しがよいのはもちろんのこと、よく見ると、信号機や看板が非常に低い位置にあることに気がつきます。電柱に看板がくっついているのも見かけたことがありませんし、ビルの窓から突き出た看板もほとんど見ることがありません。そのため、空がとても広い印象を受けます。
これは町の美観を守るための方法の一つでしょう。オーストラリア人たちは、自分たちの町の環境保護にとても気を遣っています。町の美観を守るための条例も多く、アンテナ一つ建てるのにも町の条例に則しているかどうかを確かめなくてはいけません。
【たくさんのゴミ箱】
パースには、町にも公園にもたくさんのゴミ箱が置かれています。このため、落ちているゴミが非常に少ないのも、この町の特徴です。ほとんどが緑色に彩色されたゴミ箱にはちゃんとふたも付いています。これも、美観を守るための工夫の一つですね。
政府から各家に支給されたタイヤ付きのゴミ箱はみな同じ規格になっており、週に1度の回収日には、各家がそのゴミ箱1杯分のゴミだけを回収してもらえることになっています。もちろん、ゴミが少ない理由の1つとして、自分たちの町を自分たちできれいにしよう、という気持ちが強いのも確かです。
【タバコのパッケージ】
オーストラリア人の環境に対する考え方は、「自分さえよければそれでいい」という考え方を否定しているように思えます。たとえば、オーストラリアのタバコのパッケージには、吸い過ぎはあなたの健康を害するおそれがあります、ではなく、「タバコを吸うと、あなたの隣にいる人の健康を害します」と書かれています。
(1994〜1997 オーストラリア・パース日本人学校勤務)